運輸安全委員会で船舶事故調査官としてご活躍される垰田真二(たおだしんじ)さん。
運輸安全委員会ダイジェスト第17号
「船舶事故分析集 水上オートバイ事故の防止に向けて」の編集を担当された垰田さんに、
運輸安全委員会の活動や、水上オートバイの安全についてお話を伺いました。
誰がわるかったということではなくて、
何がわるかったのかを調べています
―運輸安全委員会さんはどんなお仕事をされているのでしょうか?
運輸安全委員会は航空、鉄道、船舶の3モードについて
事故とインシデント(事故の兆候)の原因を調査し、再発防止のために提言を行っています。
事故の被害についても調べて、被害の軽減についても提言を行っています。
―警察、海上保安庁との役割分担はありますか?
警察、海上保安庁さんは警察機関として刑事責任の有無などを捜査されており、
運輸安全委員会は事故の原因究明ですので、目的が全く違います。
誰がわるかったということではなくて、何がわるかったのかを調べており、目的や手続きも異なります。
警察は湖と河川、海上保安庁は海を担当されていますが、われわれはすべての水域を対象にしています。
―事故の連絡はどこから来るのでしょうか?
水上オートバイの場合、警察、海上保安庁さんから情報をいただくルートがあります。
そちらで認知をして調査官が派遣されます。
平成21年から26年に発生したものについてはほぼ横ばい
―水上オートバイの事故がなかなか減っていないということで、事故の傾向について教えてください。
運輸安全委員会ダイジェストの中で調べました結果ですと、
平成21年から26年に発生したものについてはほぼ横ばいというかたちです。
水上オートバイは横ばいですけど、水上オートバイが関与しない船舶事故・インシデントは減っています。
運輸安全委員会ダイジェスト第17号:事故の発生状況
―水上オートバイの事故を調べられていてわかったことを教えてください。
大きな特徴は、操縦されている方以外の方の死傷がとても多いということ。
あとは負傷された方の症状が重いということですね。
運輸安全委員会ダイジェスト第17号:水上オートバイの事故を調べてみたら、こんなことが分かりました
―水上オートバイを操縦されている方以外の方とは?
ライダーの後ろに乗っている方、トーイングに乗ってる方、泳いでいる方です。
―ライダーの方以外の方の死傷が多い理由は?
同乗者の場合はつかまっていないとか、「今から発進するよ」とか
意思疎通がとれていない場合に、振り落とされてしまって落水をする。
トーイングチューブに乗っている方ですと思いっきりふられてしまい障害物や他の船にあたってしまう。
また、ソファー型の2、3人が乗れるタイプのものの場合、
ヘッドギアなどの保護具をつけずに並んでいる人同士がぶつかってしまう。
あとは遊泳者の近くで動かしてしまって、遊泳者にぶつかってしまうというケースがあります。
ライダーから確認すること、
コミュニケーションをとること
―それらはライダー側の知識やコミュニケーションで解決できることでしょうか?
印象としてはそうですね。
操縦されているライダーから確認すること、コミュニケーションをとること。
「つかまってくれ」と言って、つかまっているかどうか確認すること。
あとは配慮、心配りですよね。引っ張っているときに、その周りに障害物があるのかないのか、
旋回するときにどれくらいの回り方で回るのか、近くに障害物があれば、
これはぶつかるだろうと、見れば想像できますよね。
何かあったらいけないということを確認する、心配りすることで事故はかなり減らせるんじゃないか。
事故ばかりを見ている側からすると、そんな印象は強いですね。
―他の船舶に比べてケガをする割合が多い理由はなんでしょうか?
たとえば、船って大小さまざまで貨物船とかはとても大きくてブリッジがあってそこに人がいますので、
ぶつかったとしても船は壊れますが、沈没とかは別として人に死傷が及ぶのはよっぽどの事故の場合ですよね。
プレジャーボートにしてもキャビンがあってその中で過ごしているので船体に守られていますよね。
水上オートバイの場合は、陸上のバイクと一緒で守られていないので、
何かの衝撃で当たってしまえば、すぐに落水してしまう。
自分が落ちようと思って落ちるわけではない。不意なことでケガにつながるケースが多いです。
どうしたら楽しめるか心配りをしていただく
―ライダーはどんな行動をとれば安全に水上オートバイを楽しめますか?
やっぱり確認、見張りをすることですよね。
常にどういう状況に自分がいるのかというのを見ていただくことですよね。
あとは一緒に乗っているとか、他の人を引っ張る場合は、
どうしたらその人たちと楽しめるか心配りをしていただく。
そのことだけでも違ってくると思いますね。
くり返しになりますが、例えばバナナボートとかでもヘッドギアを用意するなどの心配りだと思います。
そういうふうなことが遊ぶ方に浸透していれば、また違うのかなと思いますけどね。
水上オートバイに乗られている方はあまり意識していないかもしれませんが、
制度上は船長であって、われわれの報告書の中でも船長と記載しています。
常に四方を見張っておかなければならないということを肝に銘じて乗っていただきたいですね。
おそらく、「俺は船長だ!」と水上オートバイの方は思わないのが
一般的な感覚じゃないかなと思うんですけど、船長と思わなくても
「ライダーはこういうことをすればいいんだ」というのが根付けば
もっともっと事故は減るんじゃないかと思うんですけどね。
―そもそも、水上オートバイ事故の防止に向けたダイジェストを作った経緯を教えてください。
1件、1件の事故の報告書がホームページに掲載されているんですけど、
水上オートバイのユーザーが検索して見ていただける機会は非常に少ない。
見ていただくためには報告書の形ではなく、まとめることによって何かしらの特徴が出てくる。
特徴だけでもわかっていただけるのかなと。
あとはこういった冊子にすることで、皆さんの目に届く形にしています。
ひとつひとつの報告書では伝わりにくいことを形を変えて、切り口を変えて発信する、
そして事故の実態をわかっていただきたいというのが作成の経緯ですね。
ダイジェストの他、こちらの神戸事務所が作成したリーフレットは職員が絵を描いています。
うまく自分をコントロールして乗っていただくことが
安全運航につながる
それと、山岡さんの講義を受けて、実際に多摩川の競艇場で水上オートバイを体験させていただいて、
素早いターンをする水上オートバイに乗って、しがみついた経験からこれを作ろうと思ったんですけど、
水上オートバイという乗り物は扱えなければモンスターだなと思いまして、
それを扱える自分の技量がどれくらいなのか、それによってスピードだったり、
旋回だったりというところで、スリルを楽しみながらどこまで自分で余裕を持って
操縦できるかというところに関わるのかなと思ったんですよね。
運輸安全委員会の水上オートバイ研修の模様
事故ばかり見ているからかもしれませんが、うまくコントロールできていないという状況が多いなと。
ひるがえれば、うまく自分をコントロールして乗っていただくことが安全運航につながるかと思うんです。
私は陸上のバイクユーザーだったのですが、相当なスピード、スピード感によって視野が狭くなりますので、
自分に余裕が出てくればもっと視野を広く確認することもできるでしょうし。
あとは、一般的に乗られている方はマナーを守っている方が多くて、
事故が起きているのは氷山の一角で、そんなに多くないのかもしれないんですけど、
われわれが調査した中では無免許で操縦する、無資格を黙認しているという状況もありましたし、
あとはお酒を飲んで自分をコントロールできないまま乗ってしまったという方もいらっしゃるので、
そこは最低限のルールとして守っていただければと思いますね。
減るんじゃないかな
なんとか減っていただきたい
自由自在に動き回る水上オートバイの場合、常に見ておかないと状況は変わってしまいますよね。
自分が動くから状況はどんどん変わっていく。
例えば友達同士で並走しています。
並走中、前方の水上オートバイがすっと後ろから来ている水上オートバイの前にすっと入った場合、
後方の水上オートバイは前を見てなければわからない。
スピードが速い、操縦性能がいい、状況が常に変わってしまいますので、
そこは確認、確認するしかないのかなと。
そういうことで減るんじゃないかな。なんとか減っていただきたい。
そもそも、誰もが事故を起こそうと思って起こしているわけじゃなくて、楽しむために乗っていらっしゃる。
それは楽しんで乗っていただきたい。
ただ事故が起きてしまって、ケガをしてしまったら、最悪亡くなってしまったら、
その人も周りの方々も人生が全く変わってしまう。
ケガをしたとしても、足が動かなくなってしまったとかいろいろなケースがありますが、
その人の人生が変わってしまう可能性があるというのを、
われわれは事故と接する中で見てきているので、
そういったところにも心を砕いていただければなと思いますね。
同じような事故がなくなるように
―GOLD RIDERの皆さまに伝えたいことはありますか?
GOLD RIDERの皆さまにお願いしたいことです。
無事故なことがもちろんGOLD RIDERなんですけど、事故が起きた後もGOLD RIDERでいてほしい。
われわれ運輸安全委員会は、事故の再発防止のために、1件、1件、事故調査をしていますので、
是非、事故調査に協力していただいて、お話しをしていただきたい。
実態として、調査に協力していただけない方がどうしてもいらっしゃる。
強制的に無理やりということはできませんので、事故のことを思い出したくないかもしれませんが、
そこは事故の後もGOLD RIDER、自分が体験したことを教えてください。
われわれは事故の当事者を責めるわけではなくて、どうしてそういう状況になってしまったのか。
そして、同じような水上オートバイユーザーに、どんなケースで、どんな状況で事故が起きたのか
ということを伝えることによって同じような事故がなくなるように、事故が起きたとしても、
被害の状況が軽くなるような方策を、事故の中から学び取っていただきたいので、
事故の際も協力していただきたい。
「あっ、こんなことで事故起きているんだ。気を付けようかな」と
思ってもらえるような情報を発信していきたいので、
それは一つ一つの事故から積み重ねたものでなければ情報を発信することができないんですよね。
それと、われわれ出前講座もやっていまして、
水上オートバイに乗っている方々の集まりに対して、
水上オートバイの事故にどんなものがあるかお話しをさせていただきます。
業務の都合で全てお受けできるかどうかはわかりませんが、積極的に出ていきます。
われわれとしても、運輸安全委員会の存在や業務を知っていただける。
事故の実態としてどんなものがあるのか知っていただき、反面教師にしていただきたい。
安全への道筋をご理解いただく力になれるのかなと思います。
運輸安全委員会 | http://www.mlit.go.jp/jtsb/
運輸安全委員会ダイジェスト第17号「船舶事故分析集 水上オートバイ事故の防止に向けて」 | http://www.mlit.go.jp/jtsb/bunseki-kankoubutu/jtsbdigests/jtsbdigests_No17.html
運輸安全委員会 出前講座 | http://www.mlit.go.jp/jtsb/demaekouza.html